「良い職場とは?」
今回のオススメ本は「ワーク・ルールズ! ―君の生き方とリーダーシップを変える」です。
本書は、
Googleが6,000人から60,000人に増えていく中で2006年に同社へ入社し、人事システムの設計~改善を行ってきたラズロ・ボックが、どんな方法で”良い職場”を作ったのかについて語られています。
今日、日本でも”働き方改革”を号令に良い職場作りが叫ばれていますが、そもそも良い職場とは何なのでしょうか?
現在の施策では、いかに残業を減らして早く帰れるかだけに着目されているような気がしますが、果たしてそれは良い職場と言えるのでしょうか?
そんな疑問に本書は多くのヒントを与えてくれています。
特に、「組織」「採用」「育成」といった点においては、今後日本の会社組織でも取り入れるべき要素が詰まっています。
ということで、この記事ではその3つの要素にフォーカスして、「ワーク・ルールズ! ―君の生き方とリーダーシップを変える」から良い職場というものについて考えていこうと思います。
組織について
職場とは組織です。
つまり”良い職場”を作るのであれば、”良い組織”を作る必要があります。
しかし、大小問わずほとんどの会社はこの組織作りに難を抱え、失敗しているのが実情です。
そのため社員の士気は上がらず、成果に結びつかず、離脱していってしまうのではないでしょうか。
では、どんな組織がそれらの問題解決の糸口になるのでしょうか?
本書ではそれについてヒントとなりそうなことが、ロシアの作家トルストイの言葉を引用して語られています。
ロシアの作家レフ・トルストイは「幸福な家庭はどれも似たようなものだ」と書いた。成功する組織もまた、どれもよく似ている。そうした組織は、自分たちが何を生み出すかについてはもちろん、自分たちがどんな組織であり、どんな組織になりたいかについて共通の意識を持っている。自己の理想像を思い描くなかで、自分たちの起源のみならず運命について考え抜いているのだ。 - P54
組織を家庭になぞらえて語っているように、”良い組織”にはそこに属する人々に何らかの共通認識が存在しているということです。
しかし共通認識を持つだけでは不十分であり、会社という組織の多くは成果を上げるという命題が与えられています。
では、ここからはその成果を構成するための3つのポイントである「パフォーマンス」、「意思決定」、「報酬」について見ていきましょう。
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パフォーマンス
MITのリチャード・ロックは、メキシコにあるナイキのTシャツ工場2社を比較した、A工場は従業員に多くの自由を与え、生産目標を設定し、チームを組織し、仕事の切り上げ方を決めるように求め、トラブルに気づいた際に生産を止める権限も認めた。B工場は従業員を管理し、与えられた仕事を忠実にこなすよう命じ、いつどうやって仕事を始めるかについて厳格な規則を付け加えた。
ロックによると、A工場の従業員はほぼB工場の2倍の生産性を達成し、手にする賃金は多く、生産コストも40%低かった。 - P34
組織運営の悩みとの一つとして、パフォーマンスを高めるにあたって、従業員へどの程度の自由を与え、どの程度管理するかというものがあります。
しかし上記の工場の事例を基に、従業員には裁量権という自由を惜しみなく与えればいいのかというと、そうではありません。
そのヒントになることが、本書では書かれています。
テキサス大学オースティン校のイーサン・バリスはこう述べている。「昔から認識されてきたように、社員にアイディアを表明する権利を与えることは、質の高い意思決定を促し、組織効率を高める重要な要因である。発言権に関する研究からわかってきたのは、社員に遠慮なく話してもらうと、意思決定の質、チームのパフォーマンス、組織のパフォーマンスに対してプラスの効果があるということだ」。 - P83
まずは、従業員へ彼らの考えを表明する機会を与えていくことが、”高いパフォーマンスを実現できる良い組織”への第一歩となるのだと考えられます。
役職問わず誰もが意見できるか職場が従業員のパフォーマンスを向上させます。会議を見ればその職場の良し悪しが分かります。
意思決定
次に意思決定について考えてみましょう。
従業員の考えが表面化してきた先にあるのは、「そこからどのように取捨選択することが良い結果につながるのか?」ということです。
組織運営において最も難しいものの一つとして意思決定があります。
しかしGoogleにおいては、「データに依存する」ことで意思決定を行っているのです。
ネットスケープの伝説的CEOであるジム・バークスを参考に、以下のように書かれています。
バークスデールは、私たち個人にとっての大きなチャンスに光を当てている。
データに依存することーさらに言えば、あらゆる話し合いにデータの裏付けを求めることーによって、マネジャーの昔ながらの役割をひっくり返すことができるのだ。最も有用な事実がそれぞれの意思決定に影響を及ぼし、マネジャーは直感の提示者から、真実の探求における進行役に変身する。
ある意味で、あらゆる会議がヘーゲル弁証法を実践する場になる。司会者がテーゼを提示すると、会議の出席者がアンチテーゼを提示し、意見をはねつけ、事実を問い、どちらの決定が正しいかを吟味するのだ。その結果がジンテーゼ(統合命題)であり、単なる意見表明に依存した場合よりも真実に近づくことになる。
グーグルの昔から変わらない方針のひとつは「政治活動をするな。データを使え」である。
ハル・ヴァリアンがこんな話をしてくれた。「データに依存することはあらゆる人にとって有益です。上級経営者は、広告の背景色に最もふさわしいのは黄色かあおかを議論して時間を浪費すべきではありません。実験してみればいい。そうすれば、経営者は余裕をもって定量化しにくい事柄について頭を悩ますことができる。このほうがはるかに良い時間の使い方になるのが普通です」。 - P209
最近ではデータドリブンを組織運営の基礎としている会社も出てきましたが、徹底度合いは組織によってバラつきがあります。
そのため、その度合いを強めることで私情を抜きにしたフラットな意思決定につながるはずです。
また、組織における意思決定者には大きな責任が生じる一方で、その選択が失敗する可能性も大きいものです。
そんな失敗可能性を大きくはらんでいる責任を意思決定者一人に押し付けるよりも、”データ依存”することで責任を分散化できるのではないでしょうか。
こういう上司ほどデータに頼ろうとしません。データを活用できない上司は今後淘汰されていくでしょう。
報酬
そして、組織における報酬についても考えてみましょう。
日本の一般的な会社組織における報酬形態というのは、多少の差こそあれ基本的には皆横並びです。
また、いくら高い成果を上げたとしても、若いという理由だけでその報酬が少ないということもあります。
スタンフォード大学の経済学者エドワード・ラジアーは、平均するとキャリアの早い時期は貢献に対して報酬が少なすぎ、後半になると多すぎると指摘している。
社内のバランスを重視する内向きの報酬制度は、優秀な人々に本当にふさわしい対価を払う機敏さや柔軟性に欠ける。ーP369
このように、報酬形態については日本のみならず疑問視されています。
しかし不公平な報酬形態が存在し続ける限り、優秀な人材は組織を去り、平均以下の人材が組織に居座るという現象から逃れることはできません。
また、不公平な報酬形態があるために、優秀な人材のモチベーションが上がらないということも考えられるでしょう。
そこで本書では、報酬に結びつく評価の観点からこのように書かれています。
組織のなかで人が発揮するパフォーマンスは、たいていの仕事の場合べき分布になる。
インディアナ大学のハーマン・アグイニスとアイオワ大学のアーネスト・オボイルは「平均的な能力の人々がつくる大集団が強い影響力を振るうわけではない・・・極めて優れた能力を持つ人々の小集団が圧倒的な業績を上げることによって、影響力を振るうのだ」と解説する。
大半の組織はそうとは知らずに、最高の人材を過小評価し、正当な報酬も払わないでいる。ーP292
日本の会社組織においては、差を付けることを極端に怖がります。
しかし、それを行うことで「優秀な人材はさらに高い成果を上げ、平均以下の社員は去る」生物本来の生態系の実現に至るのではないかと思うのです。
これは残酷である一方で、強くしなやかな組織(良い組織)を作ることにつながるはずです。
日本の企業の多くはむしろ逆で、気持ちという定量化できないものを評価軸にしていますね。
採用について
良い組織を構成するのは、既存の従業員だけではありません。
組織構成の活動において、採用はとても重要です。
しかし、企業が望む人材を採用できる確率はとても低く、採用した人材のほとんどは期待外れに終わります。
それはなぜなのでしょうか?
そのヒントとして、まずは本書で挙げられている2つの実験について紹介します。
トレド大学で心理学を学ぶトリシア・プリケットとネハ・ガダ=ジェインはフランク・ベルニエリ教授と共同で研究を進め、2000年、面接の結果は最初の10秒で下された判断から予測できると述べた。2人は実際の面接のビデオを録り、短く編集したものを被験者に見せることによってそれを発見した。
それぞれの面接ビデオをもとに、受験者がドアをノックするところから始まり、席について10秒後で終わる薄切りビデオが作られ、実験を知らされていない被験者に示された。被験者は、採用可能性、適性、知力、意欲、責任感、信頼性、冷静さ、人格的温かみ、礼儀正しさ、好感度、表現力の評価表を渡されていた。すると、11の評価項目のうち9項目について、薄切りビデオによる判断と実際の面接者の最終評価とが有意に関連していた。このように、握手や簡単な自己紹介から得られる第一印象は、(あらかじめ質問項目などを決めて行う)構造的採用面接の結果を予測させるものだった。
要するに、ほとんどの面接が時間の無駄なのは、面接者が最初の10秒で得た印象を確証するために99.4%の時間が費やされているからなのだ。「あなた自身について聞かせてください」「あなたの最大の弱みは何ですか?」「あなたの最大の強みは何ですか?」こんな質問には何の価値もない。 - P148
1998年、フランク・シュミットとジョン・ハンターは、面接時の評価から職務能力をどこまで予測できるかという85年にわたる研究をメタ分析し、その結果を発表した。
19の異なる評価方法を調べてわかったのは、よく行われている非構造的採用面接は、ある人が採用されたあとにどれくらい業績を上げるかを予測するには不向きだということだった。非構造的面接の決定係数(r2)は0.14であり、社員の職務能力の14%しか説明できないことになる。これは、身元照会(7%)よりやや良く、職務経験年数(3%)より良く、筆跡による能力解析(0.04%)よりずっと良い。
ある人の職務能力を予測するための最善の指標は、ワークサンプルテストである(29%)。これは、採用された場合に担当する職務に似た仕事のサンプルを応募者に与え、その出来栄えを評価するものだ。 - P152
多くの企業は採用活動において「面接」に比重を置いていますが、これはそもそも間違いということです。
いくら面接で質問して人材の本質を見抜こうとしても、それは不毛な行為だということです。
こちらの記事を読んでもらえれば、いかに面接では印象が重要かが分かるはずです。
本書の著者であるラズロ・ボックもこう語っています。
多くのデータからわかるのは、面接の最初の3分から5分(あるいはさらに短い時間)で大半の評価が決まること、残りの時間はその偏見の裏付けに費やされること、面接担当者は意識せずとも自分に似た人に好意的になること、ほとんどの面接技術は役に立たないことなのだと。ジョージ・W・ブッシュがウラジミール・プーチンと会った際、こう述べたことを思い出してほしい。
「私はその男の目を見た・・・彼の魂を感じ取ることができた」。
私たちは自分たちが優れた面接者だと考えることに加え、自分が選ぶ受験者も平均を上回っていると確信している。さもなければ我が社が職を提供することはしないはずだからだ。
だが、すばらしい面接のあとで感じる子供じみた楽観と、1年後に採用者の成績を評価する際の白けた現実との間には不愉快な食い違いがある。一握りのスターは記憶に残るものだ。一方、ほぼ全ての採用者がスターになると確信していたことは忘れてしまう。
こうして、採用活動は平凡な結果に終わる。ーP102
と、ここまで面接についてダメ出ししてきましたが、以下のような質問を投げかけることは、相手の本質を垣間見せてくれるかもしれないと言っています。
あなたの行動がチームに前向きな影響を与えたときのことを聞かせてください。
目標多声のためにチームを効果的に運営したときのことを聞かせてください。あなたはどんなアプローチをとりましたか?
他人とうまく協働できなかったときのことを聞かせてください。あなたから見て、その人とともに働くのが難しかった理由は何ですか?
ラズロ・ボック曰く、
傑出した求職者は、自分の選択を説明するための並外れて優れた事例や理由を持っているからだ。
採用が下手な会社ほど、人が辞めやすい職場なのです。あなたの職場は大丈夫ですか?
育成について
一方で、良い組織を構成するために重要なもう一つが「育成」です。
採用と並んで、育成も多くの企業が四苦八苦しているものです。
かつては大企業特有のものであった講師を招いてのセミナーをはじめとした、ビジネスマン向けのトレーニングを取り入れている企業も最近では少なくありません。
しかしそれに対して、本書ではこのように語られています。
効果的なトレーニングを設計するのは難しいのだ。一部の専門家は、トレーニングの90%は適切に設計されていないし実行もされないため、成績の持続的向上にも行動の変化にもつながらないとまで言っている。平均的な成績の人にトレーニングを受けさせてスーパースターに変身させるのは極めて難しい。それでも可能だと言う人もいるし、それは正しい。平凡な成績の人が有能に変わった事例はあるが、そうした成功の大半は、トレーニングのたまものというより、仕事の背景や種類の変化の結果である。
アルベルト・アインシュタインのケースを考えてみよう。彼はそもそも教師として雇ってもらえず、その後スイス特許庁では昇進できなかった。アインシュタインは、彼をスイスの歴史上最高の特許庁職員へと変える授業に出席したわけではない。また、教育学の学位を取らず、教育賞も取ろうとしなかった。彼が成功できたのは、本業に知力を使う必要がほとんどなかったからだ。おかげで、まったく無関係な分野を自由に探求できたのである。 - P104
つまり、アインシュタインほどのスーパースターを生むのはトレーニングではないということです。
そして、今の会社で施されたトレーニングも、その組織を出たら役に立たないのだということです。
ハーバード・ビジネススクールのボリス・グロイスバーグ教授によれば、個人が会社で成し遂げた特別な成功は、会社を移るときについてこない。
大枚はたいて社員を外部の営業セミナーに派遣して、違う顧客に違う商品を売る講師の話を聞かせても、あなたの会社の営業成績が躍進するとは考えにくい。
会社によって特有の問題があるからだ。 - P333
では、どんなトレーニングも意味がないのでしょうか?
それについては、かの有名な物理学者の弟がこのように言っています。
物理学者J・ロバート・オッペンハイマーの弟フランクは、「最善の学習方法は教えることだ」と言ったという。 - P352
会社に頼らず自分で自分自身を育成することをオススメします。それを可能にするのが”パラレルキャリア”です。
まとめ
本書では、世界一の企業であるGoogleが、なぜこれほどまでに成長し、かつ優秀な人材が優秀な成果を上げ続けることができるのかを垣間見ることができます。
”良い職場”を作ることは一朝一夕でできることではないものの、その効果はものすごく高いということが本書を読むことで分かるかと思います。
本書は、今日本で叫ばれている「働き方改革」について本質的に知り、考える機会を与えてくれるはずです。
本書のまとめ
良い職場に重要な要素は「組織」「採用」「育成」
良い組織を構成するのは「パフォーマンス」「意思決定」「報酬」
採用において面接に力を入れるのは無意味
育成における企業が施すトレーニングは間違い
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